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プロボノまつど事例紹介

  スキルや経験を活かしたボランティア活動であるプロボノ。新しい社会貢献の手段として広がりを見せている。プロボノワーカーとして働くことやプロボノを受け入れることにはどんな意義や利点があるのか。プロボノワーカーとその受け入れ先の双方に話を聞いた。

 一件目は市民の健康増進を目的としたメディカルウォーキングという活動に取り組んでいる、「一般社団法人みんながみんなで健康になる」(旧 チーム医療フォーラム)の秋山医師にプロボノを受け入れるメリットについて話を聞いた。

 

 

 

 プロボノの意義——思いがけない飛躍が起こる

 

 我々医者はともすると、自分たちでなんでもできると思ってしまいがちです。 しかし、他人の手を借りることで、さまざまな知見が外から入ってきて新たな気づきや考えに触れることができました。プロボノはメディカルウォーキングの活動が大きく飛躍することに役立ちました。 私は、市民の健康増進を目的としたメディカル ウォーキングという活動に従事しています。この活動を通じて一人でも健康な人を増やしたいと考えていましたが、そのための人手が足りませんでした。そこで販促活動や市場調査などで人の手を借りた方がいいと判断してプロボノの受け入れに応募することにしました。具体的には、メディカルウォーキングに対するニーズ調査を依頼しました。医療にしか携わったことがない人間がニーズを正確に読むことは非常に難しい。医療従事者以外の方の意見や考えはとても参考になりました。結果としてより正確にニーズを把握することができたと思います。

  また、ニーズ調査がきっかけでつながった地域とはいまでも懇意にします。このようにプロボノを使わなければ、つながらなかったような人や地域とつながることもできました。

 

 プロボノに応募したきっかけ

 

 プロボノを受け入れるきっかけになったのは、サービスグラントが開いている説明会でした。まずは、この説明会に参加してみることをお勧めします。そもそも自分たちが困っていることをわかってないことが多いのでないでしょうか。現在はスコーパソンという課題整理のワークショップになっているようですが、私の場合は、自分のやろうとしていることに対して、人がまったく足りていないことがわかりました。もし迷っているなら、とにかく受けてみるということを強くお勧めします。

  また、サービスグラントが進捗管理までしてくれるから、プロジェクトを順調に進めることができました。

 

出張出前メディカルウォーキングの市場調査結果

 

 

次に、プロボノワーカーとして秋山医師のニーズ調査に参加した水野さんに、なぜプロボノワーカーとなったのか話を聞いた。

 プロボノワーカーとして相手に認められる喜び

 

 私は看護師と保健師の資格を持っていて、流山市で保健事業をアウトソーシングする事業に携わっていました。松戸でも資格や経験を生かして同じことができないかと考えましたが、人脈がなく何から始めていいのかわかりませんでした。そこでたまたま目にしたプロボノの説明を聞いたときに、「なにか役立てそう」と感じて参加することにしました。秋山先生のもとでプロボノをする前に、面接のようなものがありました。私これまでの経験を話していたときに、秋山先生が「いいことをしてこられましたね」と言ってくれたのがすごく嬉しかった。これまでやってきたことを認めてもらった気がして、プロボノワーカーとして協力するときの励みになりました。

 流山にいたときは、いろいろな方と接点があって、自分のやりたいことなどを話したり、相手の取り組もうとしていることを聞いたりする機会が多くありました。松戸に来てからはそうした人とのつながりはなくなってしまったので、秋山先生のような方たちとつながることで、自分も何かできるのではないかという期待を抱くことができました。

  私がプロボノワーカーとして取り組んだことは、メディカルウォーキングのニーズを知るためのアンケート調査です。アンケートの作成、配布、集計をして最後は報告書にまとめました。 

  また、嬉しくて今でも覚えているのは、アンケートを作成しているときにも、わたしがボソッと放った一言に「さすが保健師だね」と言ってもらえたことです。保健師として参加してよかったと思いました。それまでは「私でなくてもいいのではないか」「どこで自分の力を発揮できるのだろうか」といったこと悩むこともありました。アンケートを配布する際にも、保健師時代に培った対面スキルが役に立ちました。やはり、自分らしさを実感できるということは嬉しいものです。

 二件目は懐かしい音楽を聴いてもらって高齢者を元気にする回想音楽療法のサロンを展開しているクロダマハウスの黒田さん。プロボノによる質の高い成果物に驚き、自らもプロボノワーカーとして活動している。

 

プロボノワーカーの成果物は質が高い

 

 プロボノの方にお願いしたのは、クロダマハウスの活動を伝えるためのパンフレットの作成です。こうした活動は補助金や助成金が欠かせませんが、申請の際に必要となるのがパンフレットやホームページなのです。自分で作成することは難しかったので、プロボノの力を借りることにしました。

 最初は報酬なしでつくってもらうので、正直あまり期待していませんでした。しかし、実際にできあがった成果物が素晴らしい品質で、当初の考えを改めさせられ、合計すると厚かましくも5回もプロボノさんに支援を依頼してしまいました。

 

 私がパンフレット作成を依頼したプロボノの方は本業もこなしながら、報酬なしでプロボノの仕事をされていました。お金のやり取りが発生しないことで、ただ他人のためにという純粋な志を感じました。みんながみんなのことを考える利他心が溢れる空間ができあがっていました。

 自分もプロボノワーカーになって知った対価としての経験

 

 やがて、自分もプロボノとして人や地域に貢献したいと思うようになりました。そこで私も他団体が集客で悩まれていたので、アンケートによるマーケット調査を実施してお手伝いをさせてもらいました。プロボノには報酬がありませんが、代わりに経験を対価として得られることに気が付きました。

  企業は高額で講演などを頼んでいるけれど、それよりは普段会わない人を相手に仕事をすることの方が人間としてはずっと大きくなると思いました。特にプロボノを依頼する団体は、一般的な企業とはまったく違う活動をしています。普段関わらない世界とかかわりを持つことは、思考の幅を広げるのに役立つはずです。ぜひ、新しい経験を得られる貴重な機会として、プロボノを利用してほしいです。

 そして、プロボノを依頼する側も、どんどん依頼したらいいと思います。

 高品質な成果物が上がってくるだけでなく、プロボノワーカーがやりがいをもって支援し

貴重な経験を得る機会を創出することにもつながります。

 完成したクロダマハウスのパンフレット

 次にクロダマハウスでパンフレットづくりのプロボノとして力を発揮した原田さんに話を聞いた。

 支援して学ばせていただく

 

 私はクロダマハウスの黒田さんから広報用パンフレットの作成を依頼されました。

 パンフレットを作成したことはなかったですし、デザインの知識も特にありませんでした。

  私の成果物を見て、黒田さんは非常に喜んでくださったのが嬉しかったですが、むしろ仕事を通じていろいろと勉強させていただいたと思っています。どんな仕事でも学びがあるものです。とてもいい経験となりました。

  定年後、第二の人生はお金のためではなく誰かのために働きたいと考えていました。自立できた人達が更に他の困っている人達を自立できるようにしてあげていく、そんな支援の輪を広げていけるといいなと思っています。私も含めて定年している人の中には、職業人生で培ったスキルや経験を社会のために活かせる人はたくさんいるはずです。 

  人生100年時代、定年後の人生はどんどん長くなっていきます。「自分にもできることはある」と思う

 ことができれば、それが生きがいとなると考えます。

 まとめ

 

 今回取材で象徴的だと思ったのは、自分のことだけを考えている人が一人もいなかったことだ。互いが互いに貢献したいという思いで行動し、無報酬で仕事を請け負う。普段ビジネスの世界に身を置いていては、なかなか体験できない純粋な利他心をプロボノでは味わうことができる。

 実際にプロボノワーカーに話を聞くと満足度が高いという。培ったスキルを発揮して他人に貢献することは、それまでの自分を肯定することにつながるのだろう。自分がいる意味を見出せるかどうかは、企業や地域といったどんなコミュニティーでも同じだろう。

 無料で仕事を発注することができて、受注する側もやりがいを感じられる。この好循環を回すことで、「みんながみんなのことを考える」という優しい社会が実現するきっかけになるのではないだろうか。そして好循環の第一歩となるのが、まずプロボノを受け入れる組織や団体が増えることだ。現状はプロボノの受け入れ先が少なくこの好循環が回っていない。

 確かに、報酬なしで仕事を頼むのは忍びないと及び腰になるのも理解できる。しかし、プロボノワーカーもそれを受け入れる側も双方が経験ややりがいを得ることができるWin-Winの関係にある。そのように捉えれば、むしろ積極的に利用したほうが地域社会はより豊かに暮らせる場所になるはずだ。